日記

緊迫緊張の利尻水道横断
2021.07.31

3時起床。外はまだ真っ暗だ。ばたばたと出発の準備を整え、4時過ぎに薄暗い中を稚咲内(わかさかない)の海岸へと走った。
表情は硬い。朝靄が立ち込めるサロベツ原野から、海へと近づいても波の音は聞こえてこない。2014年の時は、海が見える前から「ザバーン」と打ち寄せる波音が聞こえてきたことを思い出していた。

朝日が利尻水道を照らし、その奥には利尻島の輪郭がはっきりと見えている。波は極めて穏やかだ。風もない。予想以上の静けさに少し怖さを感じ、過度に緊張しすぎているようだと自覚した。
それでも、緊張の糸は緩めるつもりはなかった。それは、7年目の教訓が生きているからだろう。他の海であれば、これ以上ないコンディションに喜び、リラックスして望めはずだ。最後の海峡横断。最後の山へのアプローチ。今日一日がどれほど重要であるかは、強調しなくともわかる。

4時30分から準備を開始し、緊張感がさらに高まる中、抜かりないように整えた。
5時20分、海上保安庁へ横断開始の連絡を入れ、シーカヤックへと乗り込んだ。早朝から見送りに来てくださった方々へ「行ってきます!ありがとうございました。」と手を振り、一つ大きく深呼吸。そうして「よろしくお願いします!」と海へ一礼した。

出発から30分はウォーミングアップ。油氷のように滑らかな水面をゆっくりと進む。ほぼ無風である証拠だ。小さなうねりにより、海がゆっくりと脈を打つように動く。
6時からはスロットル全開。時速10キロで利尻島めがけて突き進む。目標は利尻島の南側にある小さな山。島には少し霞があるが、目標を見失うほどではない。

30分おきに給水と補給をしながら、漕ぎ進めた。7時前、出発から1時間半が経過し、中間地点を通過。直線距離は25キロ。12キロ以上進んだことになる。このペースを維持できれば、3時間を切ってしまう勢いだ。
しかし、そう簡単ではない。ほぼ無風のため、時間とともに気温が上昇。暑さで少しペースダウンした。それでも時速8キロほどキープし、出発から2時間で16キロを超えた。
少し怖さを感じるほど順調な展開だ。水道中間点から、緩やかだが潮流が出始め、スピードが出にくくなった。ここは踏ん張りどころと、パドリングにも自然と力が入った。
その時、遠くで魚が跳ねる姿が見えた。一瞬「サメか!?」と思ったが、よく見ると小さいがマグロのようだ。津軽海峡で見たときは遠目にも大きいことが分かったが、今回は小さく50センチくらいのようにみえた。少し、緊張が和らいだが集中力を再び高め、出発から3時間で23キロを通過。もう鬼脇港も目視できる距離だ。

潮流もおさまり、ようやく「もう利尻島へと渡れる」としっかり自覚することができた。20分ほどで最後の2キロをゆっくりと、そして笑顔で漕ぎ進めた。
すっかり利尻山は見上げる大きさになっている。防潮堤に立つ人影がこちらに手を振っているのが見え、お世話になっている方々だと分かると、さらに笑みがこぼれた。
「お疲れ様です!」の声に手を振り「ありがとうございます。」と答えた。
そして、出発から3時間20分で鬼脇港へと着岸した。
時刻は8時40分。まだ朝だ。ここまで順調に横断できるとはさすがに考えてはいなかったため、自分でも少し驚いていた。利尻水道でなければ3時間もあれば横断できる自信が持てたのだが、想像以上に7年前の経験が、判断に過度な慎重さを生み出していたようだ。
これで、ようやく最後の頂へと全力で挑むことができる。
それにしても、利尻島の暑さにはびっくりだ!

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