日記

往復60キロ~ニセイカウシュッペ山
2021.07.15

緊張感が高ぶり過ぎて、昨晩はなかなか熟睡できなかった。それでも、今日を逃すわけにはいかない。部屋から外を覗くと雲一つない星空だ。
眠気の残る体を、早朝食を取りながらゆっくり起こした。以前、急いで食べてお腹が不調になった経験があるからだ。(狩場山のとき)
今回は絶対にあのときのような状況にはなりたくはない。なぜなら、宿からニセイカウシュッペ山までは片道約30キロ、往復60キロにもなるからだ。

20分遅れの4時20分に出発。宿を出ると、夜明け前の空にくっきりとニセイカウシュッペ山が見えた。初めて見る光景に高揚する自分がいた。
上川町内での天候待ちが8日間にもなったが、どうやらそれが報われるような空模様だ。
ふぅと強く一息、緊張感高くして、まずは林道入口までの約11キロを走り始めた。
ここ数日、町内での羆の目撃情報があり、国道とはいえ民家は少なく、人通りは皆無だ。熊鈴を鳴らしながら、走り続けた。

1時間10分ほどで林道入口へ、ここからは一気に道端が狭くなり、羆との遭遇リスクも高くなる。ペースは順調だが、この旅で1日最長の移動距離。暑さと不安からの緊張で、すでに汗びっしょりだ。TORQUEの警報アプリを適宜使い、いつもよりも警戒心を強め、淡々と走り続けた。

林道に入ってから2時間、標高は1140メートルの登山口に到着した。すでに数台の車が止まっている。先行する登山者がいるだけで、林道を走っていた時よりも、リラックスできていた。
さぁ、299座目のニセイカウシュッペ山山頂へ!
前半は木漏れ日が差し込む緩やかな道のり。足元がぬかるみ滑りやすい為、転倒には注意が必要だ。標高1300メートル付近から尾根が少しずつ細くなり、木々の背丈は低く、合間からは天塩岳(てしおだけ)や表大雪の山々が顔をのぞかせている。
さらに標高を上げると、大槍、小槍の断崖が目に飛び込んできた。
眼下には深い谷間、そして谷の奥には、ニセイカウシュッペ山が見えた。

標高1500メートルを超えると、ようやく高山植物たちが斜面いっぱいに咲く姿が現れ始めた。大槍の北側斜面をトラバースしながら登り切ると、山頂までの気持ちのよい尾根歩きとなる。東側にはアンギラスという名の岩峰が見え、ニセイカウシュッペ山は円くどっしりしていて対照的だ。
ふと足下に目をやると、なんとチングルマが綿毛に姿を変えていた。まだ7月中旬だというのに。大雪山系の夏は早くも終わりに向かっているようだ。

そこから10分程でニセイカウシュッペ山山頂へと到着。初登頂、299座目となった。
そして、山頂からは待ちわびた景色が。登ってきた三日月のような尾根道と、その奥には東大雪から表大雪までずらりと見渡すことができた。この景色を見るために8日間も待ち続けたのだが、十分すぎる。

山頂が雲に包まれ始めた10時30分、下山を開始した。約30キロ先の宿まで、緩んだ緊張感を取り戻し、大雪山系の山々に見守られるように歩を進めた。
下山途中、300座目となる天塩岳を遠望。北海道本土での山はあと一つとなった。羆の痕跡が多く残る林道をなるべく早く抜けたく、疲労がだいぶ蓄積されていたが走り続けた。
しかし残り3キロのところで、恐怖心よりも暑さが勝り、着の身着のまま川へダイブ。火照りすぎた身体を適度にクールダウンすることができた。
残り3キロを疾走し、炎天下の国道へと出ると、緊張の糸がプツリと切れて、一気に空腹が襲ってきた。ここまで約50キロ、順調過ぎることが怖いくらい、順調な展開だった。

腹ぺこを解消して、暑さに耐えながらも心地よく、無事でいられる喜びを感じながら、宿まで往復60キロを歩き終えた。
振り返れば、もう山は雲に包まれて見えなくなっていた。
初めてのニセイカウシュッペ山、次回は車で登山口へ向かいたい。

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