日記

293座目二ペソツ山
2021.06.11

斜里町から始まった6月。暑い日も雨の日も長い日も我慢の日も休まずに歩き続けてきた。その成果が今日実るはずだ。
午前3時。まだ外は薄暗く、星が見えている。思いのほか寝起きは良さそうだ。睡眠時間は短く、夢も見ていたようだが、寝不足の感じはない。
歯を磨き、顔を洗い、さらにシャキッとするために温泉でさっと体を温めた。そして、水を飲んで、コーヒーを淹れる。朝食からしっかり食べるため、少しずつ内臓を起こしていく。以前、寝起きにガツガツと手当たり次第に食べたら、胃腸の調子を悪くした経験があったからだ(→狩場山の時)。

日の出のようにゆっくり時間をかけながら食事を終え、予定通り4時半に幌加温泉(ほろかおんせん)を出た。14時前には下山を完了する計画だ。
登山口にはすでに2台の車が停まっていた。登山口からでも往復22キロ以上、獲得標高は1900以上にもなるため、他の登山者の記録を見ても、日帰りの場合、ほとんどが夜明け前の出発だった。

登山口には山頂まで12.5㎞と書かれた看板があるが、実測はそれよりも短いようだ。それでも長丁場であることには変わりはない。
序盤は林道歩き、途中からは以前まで林道だった道のりが登山道となっている。
標高1150m地点で登山口からは5キロの看板、振り返ると朝日が差し込みきらきらと輝く三条沼が静寂に包まれていた。

登山口出発から標高1300m付近から傾斜が緩やかになり、雪渓が残る針葉樹林の中を散策するように登っていく。早朝は雪が締まっているが、下山は緩んで何度も踏み抜くことが予想された。この時点で気にすることではない。

標高1500m付近の崩落地でようやく目指す二ペソツ山とご対面。看板には山頂まで4.5㎞とあるが、標高差、距離共にまだまだ先に感じる。
前天狗岳直下の急斜面から雪渓を登ることとなり、前爪のあるアルミアイゼンを装着し、休み休み登った。登り切ると懐かしい景色が広がる。
前回は前天狗岳から幌加温泉への分岐点で、道がないことに気付き、茫然と立ち尽くしたことが懐かしい。
背の低いハイマツの間には点々と見ごろを迎えたキバナシャクナゲが咲き誇っている。夏山シーズン到来という感じだろう。

前天狗岳山頂に立つと、6年前に初めて同じ場所からニペソツ山を見たときのことを思い出した。「北海道らしくない山だけれども‥かっこいい!」という好印象を持った。そして、大雪山系のこんな奥深くに、こんな見惚れる山があったとはと感動したのを覚えている。その時と寸分たがわぬ姿に6年ぶりに感動!高揚感が「おおおおおー!」と声となってこぼれた。

そこからは疲れも忘れて、高揚感とともに上機嫌。天気も相まって快調な足取りだ。
天狗岳の直下をトラバースし、正面にニペソツ山を見ると、さらに険しさと岩肌むき出しの荒々しさがビシビシ伝わってきた。
勢いよく最低コルへ駆け下り、最後の300mの急斜面の登り返しへと入った。さすがに最後は少し疲れたが、出発から4時間40分、この日最初と登頂者となった。

山頂からは、正面にトムラウシ山。それを中心十勝連峰大雪山系がずらりと連なっている。まさに北海道の屋根だ。久しぶりに眺めるここからの展望、かすかな記憶ではあるが、前回よりも十勝連峰大雪山系の残雪が多い。大雪山系の方は5割ほどまだ真っ白だ。情報通り今年は残雪が多い。

前回は山頂での滞在はほんのわずかだった。その時の分も山頂でのんびりと、早めの昼食を取りながら過ごした。
登頂から1時間後に2人目の登山者が登頂され、その方と入れ替わるように山頂を後にした。この方からの天狗岳直下にツクモグサが咲いているという情報をいただき、帰り道も楽しみが一つ増えた。そして、八ヶ岳以来となる産毛のような毛に包まれたツクモグサを発見。前回以上に満足のニペソツ山となった。

前天狗岳から最後の雄姿をしっかり眺め、幌加温泉へと駆け下った。
下山後、幌加温泉で汗を流し、充実感と達成感の余韻に浸った。久しぶりの「しっかり登った」という感触が、この先の十勝連峰大雪山系への試金石(しきんせき)となったことは間違えない。

ぬかびら源泉郷への道すがら、だいぶ小さくなった本峰が見え、「ニペソツ山ありがとう」と手を振った。
次回は何年後になるだろう。

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