日記

ありがとう日高山脈
2021.04.28

これまで通り3時過ぎに起床。ラジオ深夜便から流れてくる昭和の歌謡曲を聴きながら、歯を磨く。この生活も今日までの予定。

昨晩はしっかり寝ることができた。
夜明け前、外に出ると、こちらへ登ってくる登山者のヘッドライトの光りが見えた。日高山脈縦走開始から初めての、他の登山者との遭遇だった。ヘッドライトの光りが見えてから、1時間後、イグルーまで登ってきた。

「おはようございます」
縦走中初めて交わす挨拶だ。
話を伺うと北海道を縦断中だという。どうやら1人の女性が2人の男性ガイドのサポートを受けながら縦走に挑戦しているようだ。
今回は5泊6日の計画でコイカクシュサツナイ岳まで北上して、中札内村へ下山するという。
分割して縦走するとはいえ残雪期の日高山脈を歩かれていることだけでもスゴいことだ。
短く挨拶とお互いの健闘を称え、女性たちはペテガリ岳へと登って行った。

さぁ、最終目的地の神威岳(かむいだけ)へ。
雲は昨日よりも少し多いが、日中は安定するとのこと。本当に縦走期間中、天気に恵まれてきた。
ビバーク地より見る神威岳はこれまで以上に遠く感じる。それは、これまで以上に起伏の激しい道のりとなるからだ。ここまでは平均200m前後のアップダウンだったが、ペテガリ岳と神威岳間は300m以上のアップダウンが連続する。そのため、主稜線が見えない区間が多く、遠く感じるのだと思う。

2015年に脱水状態となりながら登ってきた東尾根を離れ、先ずは中ノ岳を目指した。
神威岳までは大きなアップダウンが3回、1つ目は中ノ岳まで、2つ目はニシュオマナイ岳、そして最後が神威岳だ。

出発から、3時間で中ノ岳登頂。そこから先は景色が一変した。雪がほとんどなく、ハイマツが広がっていたのだ。一気に日高山脈にも春が来たような感じがする。
ハイマツをかき分け、1372mの岩峰を越えているときにアクシデントが発生。ハイマツに足が引っ掛かり、5メートルほどハイマツの上を転がり落ちた。運良くハイマツがクッションとなり、打撲と擦り傷だけですんだが、一歩間違えれば大変なことになっていた。
気持ちを落ち着かせるため少し休憩をとり、それから集中力を高め再び登り始めた。
2つ目のニシュオマナイ岳まできてようやく「神威岳が近くなってきた」と感じられるようになった。
あとひと下り、ひと登りで山頂だ。

12時にニシュオマナイ岳を出発。それから1時間45分後、日高山脈4座目、縦走最終目的地、神威岳山頂に到着した。
登っている途中、もしかしたら涙がこぼれるかもしれないと思っていたが、疲労と安堵、達成感が勝り涙は流れなかった。
「会いたかった!」
独特な山頂標識に抱きついた。
振り返ってこれまでの道のりを遠望。少し霞があったため、ペテガリ岳よりも北の山々はほとんど見えず、一層遠く感じられた。
本当にここまで歩いて登ってきてしまった。
入山前、不安と緊張ばかりで、達成できるか半信半疑だった。いや、ほとんど自信がなかった。毎日が精一杯で、毎日が不安だった。それでも、無事にほぼ計画通り、それ以上にここまでたどり着けた。
最後に「ありがとう…ありがとう日高山脈」とこぼれた。

余韻を残しつつ、エスケープルートとなる西尾根から、神威山荘へと下山を開始。
最後は雪がなくなり、固く背丈の高い笹藪をかき分け、なんとか日没前に神威山荘へ無事到着した。
山荘には誰もいなかった。荷を下ろし、ストーブに火を入れて、濡れた装備を乾かし、沸かした湯をかぶり久しぶりに汗を流した。
さっぱりしたこともあり、あっという間に眠気に襲われ、暖かい山荘で屋根を打つ雨音を聴きながら寝に落ちた。

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