日記

今年はここで登り納め
2020.11.12

3時30分起床。昨晩は変な夢、いやな夢を何度も見てしまい。なかなか熟睡できなかった。夜中には、ものすごい音をたてて屋根雪が落ちたことで、飛び起きてしまった。緊張感が就寝中も切れなかったのだろう。

いつもなら、最初の目覚ましでは起きられないのだが、この日は違った。起床から集中していた。すぐに歯を磨き、顔を洗い。朝食の準備に取り掛かる。
ストーブに火は入れない。アルファ米ができ上がる前に、防寒着から乾かしていた行動着へと着替えた。ストーブのおかげですっかり乾いていた。特に冬のストーブはほんとにありがたい。
朝食をヘッドライトの灯りを頼りにいただく。吐く息が白い。放射冷却で冷え込んでいた。

暗い中での準備で少し時間を要してしまい。出発が5時20分になってしまった。(きっと6時出発にしていたら、もっと遅れていただろう。)
スノーシューを履き、まだ星空の真っ暗な森の中へと昨日のトレースをなぞるように登り始めた。気温が低いが思っていたほど、雪は固くしまっていない。それでも、かなり楽に歩けている。気持ちの半分をまだ不安が占めていたが、太陽が昇り明るくなれば、少しは気持ちも楽になるだろう。

6時半前に昨日折り返したトレースの終点に到着し、ヘッドライトの灯りが必要無いほどの明るさに。さぁここまではウォーミングアップ。ここから先がいよいよ雪との勝負となる。気を引き締め、まずは3合目を目指した。
昨日よりも装備の重量はあったが、体力が回復しているため、足取りはまだまだ力強い。
まだまだスノーシューを履いていても埋まっていたが、思った以上にスムーズに登れ、ほぼコースタイムで3合目に到着した。休むことなく中間地点の4合目を目指す。すると今度はコースタイムよりも20分も早く到着できた。積雪量は増えているのだが、下の雪がすでに根雪となり、固まっていることで、埋まりにくくなってきたためだった。

ここで出発から2時間が経過した。出発時は登頂確率(できる:できない)が5:5だったが、ここで逆転して、6:4ぐらいになった。それで気持ちにかなりゆとりができ、笑顔も自然と増え、力も不思議と湧いてきた。
気持ちが上がると同時に青空と太陽の日差しが暑寒別岳(しょかんべつだけ)を暖かく照らし、5合目までの急斜面を登り切った。5合目にてようやく荷を下ろして休憩。7合目、夏場にはお花畑となる雪原で、さらにもう一休みした。

8合目より上は南からの湿った風により発生した雲により、ホワイトアウトしているようだ。山頂を越えて山肌を流れ落ちるようにとめどなく雲が動いている。そのダイナミックとも優雅な動きに魅了された。
8合目より下は快晴の空と、太陽の光が新雪に反射してきらきらと輝いている。きっと8合目から先とここは同じ山とは思えないほどに別世界になるだろう。しっかりと補給し、もう一度集中力を高め、8合目へと急斜面を一直線に登った。

登り切ると予想通り強烈な風が全身にぶつかってきた。7合目は遠く大雪山まで見えた視界も、8合目から先は10メートルほどとなった。久しぶりのホワイトアウト、気を抜くと帰り道を見失いそうだ。しかし、昨日からの頑張りもあり、時間にはゆとりがある。冷静さを保ちながら慎重に進んだ。
9合目、標高1450メートルを超え、もう山頂は目前だ。しかし、山頂は足元の地形が分からなくなるほどに、時折視界が全く効かなくなる。雪に埋もれていない大きな岩やハイマツを目印に、何もないところには持っていたストックを分割して帰り道の目印とした。そして、風速10メートルの暑寒別岳山頂に11時13分に登頂した。

久しぶりに山頂が完全なホワイトアウトになってしまった。しかし、それでも十分すぎるほどの達成感だった。この高揚感と喜びは少し遠のいていた感じがあった。それだけ、この時期の登山は困難を極めるということなのだ。
山頂で雲が晴れるのをいつもなら待つのだが、山頂の環境はそれが容易くできるほどではなかった。20分ほどの滞在中にもどんどん四肢がかじかみ、体全体に霧氷ができていく。「今年はここで登り納めだ~だ~だ~!!!」と雄叫びを上げ、「ありがとうございました。」一礼し、穏やかな7合目へと逃げるように山頂から慎重かつ迅速に下山した。

ホワイトアウトの世界から脱出したあとの7合目は、登ってきた時よりも眩しかった。途切れることのない滝雲を眺めながらランチを済ませ。避難小屋へと下山した。
本当に登れてよかった。登らせてもらえてよかった。
一時は登れずに引き返し、来年再びこの地に来ることになることも考えていたが、この山を登れるか登れないかで、来年の旅も動きが大きく変わってしまう。より気持ちよくゴールの利尻岳へと歩くためにも、今年中に登れるか否かは重要だった。
来年にまたこの地まで歩いてくることが嫌なのではない。新たな挑戦ができる機会を失いたくなかったのだ。

出発時は避難小屋の到着が暗くなってしまうことも覚悟したが、昼休憩を1時間とったにもかかわらず、15時過ぎに下山をすることができた。
これも、あきらめずに登り続けたことと天気が味方してくれたからだろう。今夜はもう一晩避難小屋で過ごす、きっと夢を見ることもなくぐっすりと眠れることだろう。

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