日記

山のコンディションは最高だが…
2020.10.09

4時起床。部屋まで外が冷え込んいることを感じる。
目を覚ますように歯を磨き、顔を洗い、着替える。荷をまとめながら、天気予報を見つつ、同時進行で朝食となるもの(オレンジジュース、牛乳、黒酢、コーヒー、栄養ドリンク、こんにゃくゼリー、グレープフルーツ、ヨーグルト、プリン、ロールケーキなど)を
流し込んだ。今書き連ねても、めちゃくちゃな内容だ。
お腹が落ち着く間もなく5時過ぎに出発。まだ、夜明け前。身震いしながら、体を温めるべく走った。予想通りに胃の中で、先ほど押し込んだものがミックスされて、変な感じになっていることが分かった。
お腹の状況とは関係なく、朝日を浴びてうっすらとモルゲンロートする狩場山(かりばやま)が美しい。夜明けから山のコンディションは良さそうだ。
宿から登山口までは18キロ。その間、2度も早朝から農家さんのお宅を訪ねて、トイレをお借りするという状態となってしまった。起こるべくしてなったようなものだ。
登山口に9時前に到着。予定よりも1時間近く遅くなっていた。さらに登山口のトイレでも出したため、朝から4回もしたことになる。

9時に吊り橋を渡り、真駒内(まこまない)登山口を出発。いきなりの急登で、早速息が切れる。お腹に力が入らない。いつもならヒョイヒョイ登っていけるのだが…。どんどん調子が悪くなり、激しい腹痛に襲われて、足が止まってしまった。日本一広大なブナ林を有する狩場山、見上げるとブナが黄色く色づき美しい。しかし、腹痛の状況は悪化の一途。標高700メートルを超えた辺りで、動けなくなってしまった。
お腹に力が入らなくなると、これほどまでに脚の力が無くなるのかと思い知った。太陽の日差しがあることが何よりも救いだった。

30分ほど休憩し、薬を服用、だましだまし登り続けた。標高900メートル地点でも休憩。山頂が時間の経過とともに遠くなっていく。
標高1,000メートルを超えても、笹や灌木の背丈は高く、何度も雪の重みで曲がった灌木を潜り抜けなくてはいけなかった。登頂予定だった12時を過ぎて、今度はエネルギー不足に陥り始めた。数年前にアメリカでのアドベンチャーレースで、チームメンバーが同じような状況となり、苦しんでいたことを思い出した。空腹になり、無理やり補給すると予想通り数分後に激しい腹痛に襲われるのだ。
分かっていても補給しなくては、エネルギー不足で本当に動けなくなってしまう。千走コースと合流したあたりで、腰を下ろして食糧補給をした。久しぶりに白湯がおいしかった。

整胃薬を飲んで、腹痛に耐えながら、南狩場を越えた。もっと早くから森林限界に達し、気持ちいい草紅葉や紅葉する低木の間を抜けていくかと思っていたが、実際は南狩場を越えてからだった。
山頂までのわずかな間だけが、至福の道のりとなった。しかし、それだけでも激しい腹痛に耐えながら、なんとかここまで登ってこられたことに嬉しさと安堵を得られた。

親沼、子沼を過ぎ、出発から4時間半でなんとか狩場山山頂に立つことができた。山頂にいた時間だけ湧き上がる雲に包まれてしまったが、時間に猶予はなく、10分で下山を開始した。下山は狩場山のコースで一番長い茂津多(もった)コース。距離が長いがお腹に力が入らない状況では、急斜面ではなく緩やかに下っていく方がありがたかった。

山頂から前岳までは、事前の情報とは違い登山道は草刈りがされていなかったため、予想以上に時間がかかってしまった。しかし、そのおかげで、山頂の雲が取れて、振り返ると西日を浴びる雄大な狩場山が見下ろしてくれていた。日本海へと落ち込む谷間は黄色く色づき、東側斜面よりも西側のほうが紅葉が進んでいることも分かった。
茂津多コースはかつて火山活動の時にできた溶岩台地のようで、日本海へと山がそのまま注ぎ込んでいくように見える。

西日に向かって、歩き続けているとようやく薬が効き始め、標高が下がるにしたがって、腹痛も回復していった。
茂津多コースも真駒内コースと同様に灌木と笹の背丈が高く、前岳以降はほとんど展望はなくなってしまった。

一時は真っ暗になり、ヘッドライトを灯しながらの下山も覚悟したが、最後は走ることができて、なんとか日没前の下山となった。下山直前、ブナ林で食事中のヒグマとも遭遇した。姿は笹藪で見えなかったが、どうやらこのあたりにはかなり大きなヒグマが居座っているとのことだ。排泄物のサイズを見ればツキノワグマとは比べものにならないほどの大きさだった。

下山後、近くの日本一標高の高い灯台「茂津多岬灯台」に立ち寄り、灯台から静かな日本海へと沈む夕日をながめ、一時はどうなるかと思った体調だったが、薬の力を借りつつも無事に登頂、下山できたこと、今笑顔でいられていることを感謝した。
この日の夕食はゆっくりしっかり噛んで美味しく頂けました。

(事務局注:体調が悪い時の登山は大変危険ですので、調子悪いな、と感じたときには山行を中止してください。)

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