日記

南アルプスの最難関
2019.06.06

この旅の南アルプス随一の難所といえば、甲斐駒ヶ岳から鋸岳までの縦走路だろう。特に第二高点から第一高点の間だ。直線距離だと500メートルほどだが、その間に鋸岳のすべてがつまっていると言っても過言ではない。

七丈小屋を5時半前に出発、予定よりも30分遅れだ。
甲斐駒ヶ岳の山頂が近づくにつれて、特徴的な花こう岩の白い岩が目立ち、大小の岩を乗り越えながらの登りが続いた。出発から1時間半ほどで登頂。
5年前は、濃霧の山頂だったが、今回は朝日を浴びる南アルプスの山々が見えた。美しいの一言だ。山頂には草鞋(わらじ)が吊るされた社も健在だった。

山頂でのんびりとしたい気分だったが、振り返ればこれから向かう鋸岳が見えていた。休むまもなく、気を引き締めて、縦走を開始した。
下り口には「遭難事故多発のため、適切な装備で!」とあり、一段と緊張感が増した。鋸岳までの縦走路はやはり、入山者が少ないため、踏み跡が黒戸尾根に比べれば明瞭ではない。六合目小屋を経由して、三ツ頭を越えて、中ノ川乗越に10時前に到着した。ここから先は、さらはガレ場の急登となり、落石に注意しながら、着実に第二高点まで登る。
第二高点に立つと眼下に大ギャップが見え、かろうじで、先々のマーキングや鎖が見えた。見えてもここからではどこをどう通れば、あそこまで行けるのかが想像できなかった。また、事前の情報からは、鎖場よりも、そこまでのルンゼの中を登り下りしたり、トラバースしたりする場面での落石や滑落の危険性が高いとあった。

気持ちを落ち着かせるために、補給をしっかりして、もう一度靴紐を結び直してから、まずは大ギャップへと下りた。大ギャップの最低地点に下りると、ルンゼの中は当然のように大小の落石ばかりで、ちょっとのバランスで、全てがその場に止まっているような状況だ。見上げても、見下ろしても、先へ進むルートが見当たらない。
地図では、もう少し標高を下げて、張り出した岩壁を下から回り込んで、鹿窓へと続く狭く急なルンゼを登っていくようになっているが、どう見ても登れるとは思えない。
大ギャップを見上げると、ザイルが一本風になびいていた。鎖場と間違えてそちらへと登ってしまいそうに見えるが、どうやらザイルは冬期に縦走した登山者の残置物のようだ。

落石が多いルンゼ内に長時間いたくはなかったが、ルートを間違えては、取り返しのつかない状況になりかねないため、慎重にここまで辿ってきた視認性の高いピンクテープを探した。
すると、正面の岩壁の中段にピンクテープが見えた。わずかだが、トラバースが出来るテラス状になっているような部分が見える。しかし、足場が悪ければ、ロープも鎖もないために、トラバース中に滑落するリスクが高かった。半信半疑でテープを辿った。岩壁に取りつくとわずかだが50センチ幅で続いていた。ちょっとのミスで崖下に転落だ。この日最大の集中で、鹿窓下の鎖場までたどり着いた。

鹿窓までの50メートルの鎖を登りきり、鹿窓を抜けて、稜線の反対側へと出て、小ギャップを下りて登りきると、第一高点はもう目の前となる。
振り返れば、1時間半前にいた第二高点が見え、直線距離たった500メートルでこんなに時間がかかったことにも驚いた。地図には破線ルートとして紹介されていたが、第二高点から第一高点間はバリエーションルートの感じがする。そして、ようやく長い緊張から解き放たれた。

4年前は八ヶ岳で捻挫し、雨天の中の登山だったこともあり、甲斐駒ヶ岳からの縦走路を断念し、釜無林道からの登頂だった。また、第一高点からは濃霧のため甲斐駒ヶ岳方面は全く見ることができなかったため、今回の縦走にも、その時の経験を生かすことができなかった。
短い距離ではあったが、距離からは想像もつかない鋸岳の険しさが詰まっていた。当初の予定は六合目小屋まで引き返して宿泊だったが、今来た難所に戻れるほどの体力と集中力、自信が残っていなかった。
下山は遠回りとなるが、標高差1300メートルの角兵衛沢を谷底まで下りて、北沢峠まで700メートルを八丁坂から登り返すルートを選択した。距離と高低差は増えるが、リスクに身をさらす時間が減ることを優先しての判断だ。

ガレガレの角兵衛沢を一気に駆け下りて、戸台川に飛び込み、全身をアイシングしてクールダウン。それから北沢峠のこもれび山荘へ急いだ。結局、出発が30分遅れたため、到着も30分遅れてしまった。この日の夕食は、久しぶりに内臓まで疲れ切ってしまい、消費したカロリー分を食べることができなかった。
食べながら眠気に襲われ、気づけば寝に落ちてしまった。南アルプス最難関を無事に抜けた自分自身を今日だけは「よくやった」と言ってあげたい。

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