日記

南アルプスへ
2015.09.03

秋雨前線の動きにやきもきしていたが、わずかな天気の安定を見計らって、今日鋸岳に登る事に決めた。
南アルプスの中では最難所となる鋸岳へのアプローチには、計画当初から悩まされた。
この山について調べると、かなりの岩稜を行くことになり、なおかつクライミングの技術はもとより、ザイルなどの登坂装備も必要になることを知った。

さらに調べると、最近の2百名山の人気の影響か、ザイルが必要な所には鎖が設置されたらしく、以前よりはアプローチがしやすくなったとある。
したがって、当初は黒戸尾根から、甲斐駒ヶ岳に登り、鋸岳までを往復して、再び甲斐駒ヶ岳まで戻り、北沢峠に下山する、1泊2日を計画していた。

しかし、南アルプスが近づき、地元の山岳ガイドの方からさらに詳しい情報を集めると、僕が計画していたルートは、かなりリスクが高く、一人で2度も鋸岳の岩稜を行くのはさらにリスクを高める事がわかった。そこで、登山口までのアプローチは長くなるが、確実でリスクの低いルートを教えてもらった。
それは、富士川の水源となる釜無川からのアプローチだった。
コースタイムも当初のルートから比べれば、半分くらいになり、1泊2日が1日で登頂することができるようになった。

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ということで、当初の予定を大幅に変更して、南アルプス一座目の鋸岳に出発した。
霧雨と冷たい風が抜ける林道を歩き、林道の終点へ、無人の山小屋の脇から南アルプスらしい雰囲気の樹林帯を登っていった。
途中に日本三大急流の富士川源流に立ち寄り、そこから一気に横岳峠まで登る。樹林帯の中は苔むして、足元には見たこともないキノコがたくさん秋の訪れを喜んでいた。

横岳峠からは南に進路を変えて、ピラミッドピークまでさらに急な登山道を登って行く。木々の間から対岸の尾根をいく南アルプス林道が見えた。
西側の斜面はどこも切れ落ちていて、谷からの風で一気に体温を奪われる冷たさだった。

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標高が上がるにつれて、気圧は下がり始め、10時過ぎにピラミッドピークに到着した時には、出発時は見えていた山頂がすでに雲がかかっていた。
予報通りに天気が進んでいるようだ。
霧雨が舞うなかレインウエアを着込んだ。
その間にも辺りはどんどん薄暗くなり、風が強くなった。
30分ほどで第一高点の鋸岳山頂についた。
This is NOKOGIRI!
と言われる。

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第一高点から甲斐駒ヶ岳方面の岩稜は見えなかったが、不安定な天候が続いている中で、最良のルートと、タイミングで登頂することができたと思っている。
天候が安定していて、かつ晴天であれば、ここから甲斐駒ヶ岳へ行ってもいいと考えていたが、それも条件がすべて揃わなければ行くべきではないとわかっていたので、あっさり見送った。下山は戸台川へ下りる角兵衛沢を選んだ。
落石が多く、ルートも不明瞭なところも多いので、難コースには変わりなかったが、鋸岳の場合これが最良だった。

マーキングは乏しく、標識は一つもない。一歩踏み出すと、ゴロゴロと音を立てて、頭よりも大きな岩が簡単に崩れた。慎重になりすぎると足を置いたところに後ろからゴロゴロと大きな岩が足元に落ちてくるので、いつまでも同じ場所に足を置いておくことができない。慎重にかつ素早く足を前へ出す。細かい石のザレ場であれば、ザクザクと楽に降りていけるが、頭大の岩がお互いに微妙なバランスで止まっているガレ場が一番厄介だった。そういう場所はまっすぐ下りるのではなく、ジグザグと下りた。

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約1時間半で戸台川まで下山、さらにここから北沢峠まで約600メートルの登り返しだ。
雨が降りだす前に着けるように、八丁坂もガンガン登る。足を痛めたことで数日休み、スタートから3ヶ月間の蓄積してきた疲れもだいぶん抜けたようだ。

午後2時40分に南アルプス林道に合流、八丁坂の素晴らしいコケ畑は見事だった。
大平山荘の前を歩いているとちょうど雨が強く降りだした。小屋のおばちゃんが「鋸岳にいってきたのかい?」と話しかけてくれた。「こんにちわ~はい!そうです」と答えると…おばちゃんが僕の顔を見て、「あっ!もしかして田中さん!?」と気が付いた。
すると「ちょっと休憩してきませんか?」とお誘いを頂き、今日の宿泊地の北沢峠まで、数分だったので少しだけならということで、休憩させていただいた。

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中に入ってビックリ、最近の営業小屋では見ない造りの山小屋だった。
平屋で、入り口から奥に向かって長く、入り口から裏口まで続く土間があり、左右に寝たり、くつろいだり、食事をする座敷がある。雰囲気は避難小屋のような感じで、ある程度のプライバシーが守られた最近の山小屋とは全く違う造りだった。
その雰囲気に思わず、「いいですね~ここに泊まってもよかったな~」と言ってしまった。
すると、奥から出てきた男性が「今日はちょうど誰もいないんですよー」と笑顔で話した。「あっこんにちわ!はじめまして田中です。」と言うと「はじめまして、いや~まさか田中さんがうちに立ち寄ってくれるとは、いつ来るかずっと噂はしてたんですよ!どうぞゆっくりしてってください」と嬉しい言葉を頂いた。

ご夫婦で営んでいると思いきや、小屋の話を聞いていると実はご兄弟で、さらに北沢峠の開拓者である竹澤長衛さんのお孫さんだった。今ある北沢峠の3つの小屋は、今は経営者が町や市になったが、元々は竹澤一家で経営していたそうだ。
先代のお父さんや叔父さんが亡くなったあとは、唯一大平山荘が今も先代の意志を受け継いでいるそうだ。冷えた体を温めてくれた巻きストーブとコーヒー、そして、お2人の優しい笑顔に「次はゆっくり泊まりにきます♪」とお礼を言って雨の中北沢峠に向けて最後の登りを登った。
ちょっと立ち寄っただけだが、僕のお気に入りの山小屋になりそうだ。

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北沢峠の山荘は南アルプスの甲斐駒ヶ岳や仙丈ヶ岳などの起点にもなるので、平日の不安定な天候でもたくさんの登山者でにぎわっていた。
いわゆる今風の山荘がそこにはあった。
2つの対照的な山小屋にどちらもそれぞれに良さがあるが、自分のスタイルに合った山小屋はどっちかな~とぼんやり考えた。
明日の予定が決めきれないまま、南アルプス初日の夜が更けていった。

 この日記に書かれている場所はこの辺りです